ひとまず上出来

明けない夜はないはずだ。

いまの自分の「ちょうどいい」を見つけよう、最新エッセイ集。

引用:ジェーン・スー 「ひとまず上出来」 文藝春秋 帯より

ネタバレありです。ご注意ください。

今私が働いている職場は優秀な人が多い。そんで、今私が業務を引き継いでいる人はその優秀軍団の中でもひときわ優秀な人で、その人がさらに難しい仕事をするために、比較的簡単な仕事は私がすることになった。その人はとっても優秀なんだけど、とっても正直なところがあって、私の目の前で、遠慮なく「やっとしょうもない仕事から解放される~!」と言ってのける。そのしょうもない仕事を引き継ぐ私のことなんてミジンコくらいに思ってるんだろうなー!あー嫌になっちゃう!辛い!!!って心が悲鳴をあげてる。

そんな日々を過ごしていたある日、私のカバンに入っていたのは「蜜蜂と遠雷」だった。何度も何度も繰り返し読んだお気に入りの本なのに、どうしても読めなかった。才能に溢れ、好きなことに熱中し、輝いている若者たちの話なんて、今のメンタルではどうしても読めそうになかった。そんな時、ふと「そうだ、こんなときは、スーさんの本だ」と、縋るような気持ちで本屋へ行き、購入したのが、この「ひとまず上出来」。鬱々とした気持ちを晴らしたくて手に取ったけど、結果、大正解。おかげで、デリカシーがない先輩のことも、ミジンコみたいな自分のことも、ちょっとだけ受け入れられている気がする。

あと、この本、装丁がとってもかわいいのもお気に入りポイント。装丁をめくると本が赤色なのもかわいいんだ~。

気持ちの言語化

スーさんと私は全く違うタイプの人間だと思う。私はスーさんのように友達もいなければ、仕事にも打ち込めない、仕事以外にも打ち込めるものがない。だけど、スーさんのエッセイを読むと「そうそう、私ってそうなの、そういうところあるの」「そう、この時こういうことが嬉しかった/嫌だった」「そういえばこういうことが出来るようになった」ってものすごく自己理解が深まる。冷静に自分のことを見つめなおすことが出来る。それがとても気持ちいい。

自己受容の仕方

スーさんのエッセイや対談なんかでは「自己受容」という言葉がよく出てくる。

幼い頃、私の体調が悪いと母の機嫌が悪くなったり、母の日に贈り物をあげても受け取ってもらえなかったり、いつまでも泣き止まない私に父が激怒した。学生時代、顧問の口癖だった「努力は大切」みたいな言葉を信じて、ひたすら練習に打ち込んだものの結果が出なかったり、個人で賞を取っても「今年は審査員の人選がなぁ」と言われ、褒められなかった。そんでそんな周りの態度や反応や出来事が、悲しい、悔しい、辛いって誰にも言えず、自分の中でも消化出来てないまま大人になってしまった。

もうなんだかずっと誰からも受け入れられたり、認められたりしていない気がする。でも、それさえも被害妄想なんじゃないか、って自分の気持ちにすら自信を持てない。困ったことがあったり悩んだことがあっても、誰にも相談できないし、自分の思ったことを人に伝えたり、分かってほしいという気持ちが持てない。どうせ迷惑だろうな、どうせ分かってもらえないだろうなって。

そうやって自己受容とは真逆の人生を歩んできた。まず、このことに気付けただけでも成長では?と思う。大きな一歩じゃん。そんで、自己受容って自分のちょっとした決断や行動でも出来るのかな、ってことも分かった。私って自分の幸せを人に委ねすぎでは?もっと自分で自分を幸せにしてやろうぜ!って。自分の幸せを他人に委ねたり、自分の不甲斐なさを他人のせいにするより、自分が自分を理解して、受け入れて、認めてあげることが出来るようになろうぜ!って。

もうスーさんは私の人生の師匠といっても過言じゃないかもしれない。

オタクの熱量

本作の最後に「ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。」というエッセイが収録されている。これは、スーさんの推し活についてのあれこれが書かれているんだけど、ものすごく熱量があって、何度読んでもわくわくするの。推し活といえばつづ井さんのエッセイなんかもとっても好きで何度も読み返してるけど、やっぱりオタク特有の熱量で語られる推しへの愛と、推し活エピソードって本当最高。私もオタク気質なので、共感しっぱなし。

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