蒲公英草紙

「青い田園が広がる東北の農村の旧家植村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから……、不思議な能力を持つという常野一族。植村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。」

引用:恩田陸 「蒲公英草紙」 集英社文庫 裏表紙より

ネタバレありです。ご注意ください。

今作は常野シリーズ第2弾であり、第1弾「光の帝国」に収録されている「大きな引き出し」で登場した「しまう」力を持っている春田一家のお話。「光の帝国」のあとがきで、春田一家のお話にしたら良かったかなぁというようなことを仰っていたので、第2弾に採用されたのも納得。「光の帝国」を読んでなくても楽しめます。

子どもと大人のあいだ

もともと恩田さんの書く学園ものが大好きな自覚はあったんだけど、本作を読んで、その理由がはっきりと分かった。子供でも大人でもない、10代後半の繊細な心の描写が抜群だからだ。愛しくて苦しくて切なくて儚くて、うらやましい、、、。私の経験できなかった青春のすべてがそこにある。もう決して体感できない思春期、青春、10代。私にも彼ら彼女らのように、尊い心の機微を感じられる時期があったはずなのに、どうしてあんな鈍感に過ごしてしまったんだろうか。もっともっと自分や周りの人たちと向き合えば良かった。大人になることを実感して年齢を重ねればよかった。

本作では「六、夏の約束」がまさに該当するところ。廣隆と峰子、聡子様と永慶様、それぞれの純粋で無垢な気持ちが本人たちのなかで目いっぱい膨らんでいる様子がとても良い。

今作の舞台となっている「昔の農村」がどことなくジブリ作品を彷彿とさせるけど、二人の間に沈黙が流れるとき、風が吹いて木々が揺れて音を立てる、そんでそれがやけに際立って聞こえるの、すごく分かる!と思った。なんで分かる!と思ったかっていうと、ジブリでも大切な場面では風の描写が入るので、それ、分かる!想像できる!って。そうそう、そういう場面って風が吹くのよね!って。

みんなすごいよね。大人に成長する過程で当たり前のように誰かを好きになって、好きになってもらって、気持ちが通じ合って、みたいな経験をしてるんだもんね。最近では、そんな経験を一切積むことなく、三十何年も生きてる私も、逆に凄いのでは、って思い始めてきた。

その他

  • なぜか今回、人の名前がなかなか覚えられなかった。あれ、この人は峰子の兄ちゃんか?屋敷の兄ちゃんか?峰子に惚れてるやつか??みたいな感じでこんがらって何度もさかのぼった。
  • 廣隆と峰子が結ばれなかったのがとても残念。二人とも他の人に恋なんて出来なさそうなぐらいの雰囲気だったのになぁ。
  • 20世紀、21世紀、戦時中のこと、時代背景がいまいち分からない。あまりにも無知だなと痛感する。なぜ廣隆が突然政治に目覚めたのかもいまいちピンとこなかった。コクリコ坂にあった学生運動の延長線上的な感じだろうか。
  • 「春田」っていう苗字がこの一家に合ってていいなと思った。春と言えば出会いと別れの季節だし、色んな場所を転々としながら出会いと別れを繰り返している彼らにぴったり。
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